中国の自動車メーカーBYDは、世界では電気自動車とプラグインハイブリッド車を大量に販売する大手メーカーです。
ところが日本では、「BYDは売れていない」「中国車は日本では無理」「いずれ撤退するのでは」といった見方が今もあります。
実際、日本国内の登録台数だけをトヨタや日産、ホンダと比べれば、BYDの規模はまだごく小さいものです。街中で頻繁に見かけるブランドになったともいえません。
一方で、2025年の国内販売は前年比68%増、2026年上半期も前年同期比42.7%増となりました。さらに、EVだけでなくPHEVの「SEALION 6」を投入し、2026年7月には日本専用の軽EV「RACCO(ラッコ)」まで発売しています。
つまり現在のBYDは、「日本でまったく売れず、撤退が近いメーカー」ではありません。販売規模は小さいものの、日本向けの商品と販売網を増やしながら成長を続けている段階です。
この記事では、BYDの国内販売台数を確認したうえで、それでも日本で大きなシェアを取れていない理由、撤退説の根拠、軽EVラッコが市場を変える可能性を整理します。
※販売台数・価格・ラインアップは2026年9月時点で確認した情報です。
BYDは日本で本当に売れていない?先に結論
BYDについては、「売れていない」と「成長していない」を分けて考える必要があります。
日本の新車市場全体から見れば、BYDのシェアはまだ非常に小さく、販売規模の面では苦戦しているといえます。
しかし、国内登録台数は3年連続で増えており、販売が縮小しているわけではありません。
| 年・期間 | 国内登録台数 | 状況 |
|---|---|---|
| 2023年 | 1,446台 | 日本での乗用車販売を本格開始 |
| 2024年 | 約2,200台 | 前年から5割以上増加 |
| 2025年 | 3,742台 | 前年比68%増 |
| 2026年1~6月 | 2,334台 | 前年同期比42.7%増 |
2026年上半期には、PHEVのSEALION 6が累計1,254台を登録し、販売を大きく押し上げました。
この数字だけで「日本市場で成功した」と結論づけるのは早いものの、少なくとも販売台数が伸びずに撤退へ向かっている状況ではありません。
現状を正確に表すなら、次のようになります。
BYDは日本ではまだ小規模だが、EV専業からPHEV・軽EVへ商品を広げ、成長速度を上げ始めている。
BYDが日本で売れないと言われる7つの理由
1.日本ではBYDのブランドを知らない人がまだ多い
BYDは世界的には大手メーカーですが、日本で乗用車の販売を本格的に始めたのは2023年です。
トヨタ、日産、ホンダのように長年の販売実績がある国産メーカーだけでなく、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンといった輸入車ブランドと比べても、日本での認知や所有経験はまだ限られています。
自動車は購入後も点検、修理、売却まで長く付き合う商品です。そのため、スマートフォンや家電のように「性能が高くて安い」だけでは、すぐに新しいブランドへ乗り換えてもらえません。
CMで名前を知っても、実際に購入候補へ入るまでには時間がかかります。
2.中国ブランドに対する心理的な抵抗がある
BYDを検討するとき、「中国車は大丈夫なのか」と安全性や品質に不安を持つ人は少なくありません。
ここには、製品そのものの評価だけでなく、中国製品への先入観、政治的な印象、個人情報や車両データの扱いに対する警戒も含まれます。
一方で、「中国車だから危険」「BYDだから故障が多い」と一括りにするのも適切ではありません。安全性は車種ごとの衝突試験、保証内容、リコール情報などで判断する必要があります。
BYDにとっての課題は、世界販売台数の大きさを訴えるだけでなく、日本で実際に使われた年数、修理対応、下取り価格などの実績を積み上げることです。
3.国産ハイブリッド車が強く、EVを選ぶ必然性が弱い
日本では、トヨタやホンダを中心にハイブリッド車が広く普及しています。
燃費がよく、充電設備を必要とせず、長距離移動でも給油時間が短い。販売店や整備拠点も多く、下取り価格を予測しやすいという安心感があります。
自宅充電ができない人や、集合住宅に住む人にとっては、EVへ乗り換えるメリットより充電の不便さが先に見えることがあります。
BYDの車が悪いから売れないというより、日本ではすでにハイブリッド車が「使いやすい電動車」として定着していることが、大きな壁になっています。
4.販売店と整備拠点が国産メーカーほど多くない
BYDは国内の正規ディーラーを増やしていますが、国産メーカーの販売網と比べれば、地域による差が残っています。
車両が魅力的でも、自宅から販売店まで遠い、故障時に預けられる場所が限られる、代車や部品の供給に不安があると、購入をためらう理由になります。
BYDは全国100店舗体制を目標に掲げ、ヤナセEVスクエアを含む販売事業者との契約や新規出店を進めています。したがって「整備網がまったくない」という評価は正しくありません。
ただし、購入前には最寄り店舗までの距離だけでなく、点検・板金・事故修理に対応できる拠点と、緊急時の搬送体制まで確認した方が安心です。
5.リセールバリューと中古車相場が読みづらい
BYDは日本での販売歴が短いため、3年後、5年後の中古車価格を予測する材料が国産車ほど多くありません。
EVはバッテリーの状態、補助金、新車価格の変更、技術進歩の影響を受けやすく、新車の値下げや購入支援策が中古車価格へ影響する可能性もあります。
残価設定ローンや乗り換えを前提にする人にとって、将来の査定額が読みにくいことは大きな不安材料です。
購入価格だけでなく、保証終了後まで乗り続けるのか、短期間で乗り換えるのかを先に決めておく必要があります。
6.初期のラインアップが日本の売れ筋とずれていた
BYDは日本で、ATTO 3、DOLPHIN、SEAL、SEALION 7というEVを順次発売しました。
DOLPHINは比較的コンパクトですが、初期の主力はSUVやセダンであり、日本の新車市場で大きな割合を占める軽自動車、コンパクトハイブリッド、スライドドア車とは異なる商品構成でした。
日本で人気の高いカテゴリーに商品がなければ、価格や性能が優れていても販売台数は伸びにくくなります。
この弱点を補うのが、PHEVのSEALION 6と、日本専用軽EVのRACCOです。BYDはようやく、日本で売れている車の使われ方に合わせた商品を用意し始めたといえます。
7.EVは補助金と充電環境によって実質負担が変わる
EVは車両価格だけで単純比較できません。
国のCEV補助金に加えて、自治体の補助制度、自宅への充電設備設置費、充電料金、任意保険まで含めると、住んでいる地域や使い方によって負担が変わります。
たとえばBYD RACCOは214万5,000円からですが、国のCEV補助金は15万円です。補助金適用後の最廉価グレードは199万5,000円となる一方、競合車の補助額によっては、車両価格の差がそのまま購入者の負担差にはなりません。
「BYDは安い」と価格だけで決めず、補助金適用後の支払額と、自宅充電を含めた総費用で比較する必要があります。
現在のBYD国内ラインアップ
BYDは、2023年の参入当初と比べて、日本向けの商品を大きく増やしました。
| 車種 | パワートレイン | 車両タイプ | 価格の目安 |
|---|---|---|---|
| DOLPHIN | EV | コンパクトハッチバック | 299万2,000円~ |
| ATTO 3 | EV | ミドルサイズSUV | 418万円~ |
| SEAL | EV | スポーツセダン | 495万円~ |
| SEALION 7 | EV | クロスオーバーSUV | 495万円~ |
| SEALION 6 | PHEV | SUV | 398万2,000円~ |
| RACCO | EV | 軽スーパートールワゴン | 214万5,000円~ |
従来はEVだけでしたが、SEALION 6によって自宅充電と長距離移動を両立しやすいPHEVを追加しました。
さらにRACCOは、軽自動車規格、背の高いボディ、両側電動スライドドアという、日本市場を強く意識したモデルです。
価格や車種の詳細は、以下の記事で解説しています。
→ BYD SEALION 6は買いか?価格・燃費・航続距離を解説
SEALION 6でBYDの売れ方が変わった
2025年12月に国内発売されたSEALION 6は、BYDにとって日本初のPHEVです。
2026年上半期までの累計登録台数は1,254台となり、BYD全体の登録台数2,334台の半分以上を占めました。
この結果から分かるのは、日本でBYDが伸び悩んだ原因が、ブランドだけではなく「EVしか選べなかったこと」にもあったという点です。
PHEVなら、日常は充電した電気で走り、長距離ではガソリンを使えます。充電切れを過度に心配せず、集合住宅や旅行でも使いやすいため、日本の利用環境と相性があります。
SEALION 6が売れたことは、BYDが日本で成長するためには、世界共通のEVを持ち込むだけでなく、日本の充電環境やユーザー心理に合わせる必要があることを示しています。
軽EVラッコはBYDの転換点になるか
2026年7月28日に発売されたRACCOは、BYDが日本市場のために専用設計した軽EVです。
軽自動車規格に収まるボディに、全高1,800mmのスーパートール形状と両側電動スライドドアを採用。価格は214万5,000~249万7,000円、一充電走行距離はグレードによって210kmまたは320kmです。
これまでの軽EVは日産サクラや三菱eKクロスEVのようなハイトワゴンが中心でした。RACCOは、N-BOX、スペーシア、タントのような「背が高く、スライドドアを備えた軽自動車」の使い方をEVへ持ち込んだ点が特徴です。
BYDは2026年末までに1万台の受注を目標に掲げています。これは2025年のBYD国内年間販売台数3,742台を大きく上回る、非常に強気な目標です。
RACCOが成功する条件は、価格だけではありません。
- 実際の納期と供給台数
- 冬場や高速道路での実航続距離
- 日常での充電のしやすさ
- 軽自動車ユーザーが求める収納と使い勝手
- 事故修理を含むアフターサービス
- 数年後の下取り価格
これらが評価されれば、RACCOはBYDの認知を一気に広げる可能性があります。反対に、販売店の遠さやリセールへの不安を解消できなければ、話題だけで終わる可能性もあります。
BYDの日本撤退説に根拠はある?
2026年9月時点で、BYDが日本の乗用車市場から撤退すると公式発表した事実は確認できません。
むしろ実際の動きは反対です。
- 2025年にPHEVのSEALION 6を発売
- 2026年に日本専用軽EVのRACCOを発売
- 正規ディーラーを各地へ出店
- 全国100店舗体制に向けて販売事業者との契約を継続
- 車種の装備更新や購入後のメンテナンス支援を実施
もちろん、将来にわたって撤退の可能性がゼロだとは断言できません。自動車メーカーは、販売台数、収益、為替、規制、国際情勢によって戦略を変更することがあります。
しかし、販売台数が増え、日本専用車まで投入している現在の状況から、「売れていないから近く撤退する」と結論づける根拠はありません。
撤退リスクを心配するなら、噂ではなく、最寄りディーラーの運営会社、保証を引き継ぐ主体、補修部品の供給期間、ロードサービスの内容を確認する方が実用的です。
BYDは日本メーカーにとって脅威になるのか
国内販売台数だけを見れば、BYDがすぐにトヨタ、ホンダ、日産、スズキの販売を大きく奪う状況ではありません。
しかし、中長期的に無視できない存在であることも確かです。
BYDの強みは、バッテリー、モーター、パワー半導体など電動車の主要技術を幅広く自社で手がけ、商品化の速度が速いことです。
さらに、日本でEVが伸びにくいと判断すると、PHEVを投入し、その次には日本専用の軽EVを開発しました。単に中国で売れている車を輸入するだけでなく、日本市場に合わせ始めています。
日本メーカーにとって本当に注意すべきなのは、現在の数千台という販売規模よりも、次の3点です。
- 電池から車両までを垂直統合するコスト競争力
- PHEVやEVを短期間で商品化する開発速度
- 軽自動車のような地域固有の商品へ適応する力
一方、BYDにも、日本でのブランド信頼、販売網、整備、リセールという弱点があります。
短期的には国産メーカーが圧倒的に有利ですが、BYDがRACCOで軽市場のニーズをつかみ、販売後のサポート実績を積めば、競争の前提が変わる可能性があります。
BYDが今後日本で伸びるための条件
BYDが日本で一時的な話題ではなく、継続的に選ばれるブランドになるには、次の条件が重要です。
販売後の安心を実績で示す
購入時の値引きより、修理日数、部品供給、保証対応、代車、事故時のサポートが評価される必要があります。
中古車価格を安定させる
認定中古車や残価保証を充実させ、数年後に売却するときの不安を軽減できれば、購入のハードルは下がります。
日本向けの商品を増やす
SEALION 6とRACCOのように、日本の充電環境、道路事情、家族構成に合うモデルが販売を伸ばす鍵になります。
価格以外の購入理由を作る
安さだけで売ると、さらに安い競合車が登場したときに選ばれにくくなります。安全性、使い勝手、保証、ソフトウェア更新などを含め、「BYDだから選ぶ理由」を築く必要があります。
BYDの日本販売についてよくある質問
BYDは日本で何台売れていますか?
2025年の国内登録台数は3,742台でした。2026年上半期は2,334台で、前年同期比42.7%増となっています。
BYDは日本から撤退するのですか?
2026年9月時点で、日本撤退の公式発表は確認できません。PHEV、軽EVの投入やディーラー出店を進めており、現時点では事業を拡大する動きが確認できます。
BYDはEVしか販売していないのですか?
現在はEVに加えて、PHEVのSEALION 6を販売しています。EVだけでは充電面に不安がある人も検討しやすくなりました。
BYDラッコは日本専用車ですか?
RACCOは日本の軽自動車規格と利用環境に合わせて開発されたモデルです。背の高いボディと両側電動スライドドアを採用しています。
BYDはなぜ世界で売れているのに日本では少ないのですか?
日本ではハイブリッド車と軽自動車が強く、EV比率が低いことに加え、ブランド認知、販売網、リセールへの不安があるためです。ただし、PHEVと軽EVの投入によって状況は変わり始めています。
まとめ|BYDは「売れないメーカー」から日本攻略の第二段階へ
BYDの国内販売台数は、日本市場全体から見ればまだ小規模です。国産メーカーの販売網、ハイブリッド車への信頼、軽自動車の強さを考えると、短期間で大きなシェアを得るのは簡単ではありません。
そのため、「BYDは日本でまだ十分に売れていない」という評価には根拠があります。
しかし、「販売が伸びていない」「撤退が近い」という見方は、現在の事実と合いません。
2025年は前年比68%増、2026年上半期も42.7%増。PHEVのSEALION 6が販売を押し上げ、日本専用軽EVのRACCOも投入されました。
今後の注目点は、RACCOが一時的な話題で終わるか、軽自動車ユーザーの日常に入り込めるかです。
BYDが日本メーカーをすぐに脅かすわけではありません。それでも、EVだけに固執せず、PHEVと軽自動車へ戦略を修正した動きは無視できません。
BYDの日本展開は、撤退を議論する段階ではなく、本格的な日本攻略が成功するかを見極める第二段階に入っています。
